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 瞼を開いてしばらくは、思考が止まったままだった。
(あれ……?)
 身じろぎしたのと同時に身体の上の毛布に気付く。
 その感触をきっかけに、少しずつ記憶が蘇ってきた。
(わたし……寝てた?)
 その事実に気付いた途端、ゆきは勢いよく身体を起こした。
「ご、ごめんなさい瞬兄! わたし寝ちゃって――」
「ああ、もう起きたんですか」
 慌てふためくゆきと対照的に、瞬はいつもと変わらない声で冷静に言った。
 けれどその声音には確かな温かさが宿っている。
 怒られても仕方ないくらいなのにと自己嫌悪に陥りながら、ゆきは毛布を畳み始めた。
 自室で仕事をしていた瞬のもとへやってきたのは一時間ほど前。
 少し待っていれば終わるからと言われ、そのまま部屋の隅のソファで座って待っていたのだが、知らないうちに眠ってしまったらしい。
「まだ寝ていても良かったのに」
 振り向いてこちらを見る瞬の瞳はやはり切ないほどに温かくて、ゆきは小さく首を振った。
「だって、ちゃんと待ってるって言ったのに寝ちゃうなんて……わたし、お仕事の邪魔してるよね。ごめんなさい」
「気にすることはありません」
 そっけなくも聞こえる物言いは、しかしこの上もなく優しい。
 思わず顔を上げて目をしばたたいたゆきに、瞬は笑みを向けてくれた。
「俺があなたを邪魔だと思うことなどありません。……あなたはそのままでいてくれればいい」
「そんなこと……だってわたし、瞬兄にいっぱい迷惑かけてばっかりだよ」
「ですから、あなたを迷惑だと思ったことなど一度もありません」
「……っ」
 ゆきが絶句する間に、瞬が机を離れてこちらへやってくる。
 そのままゆきが座るソファの隣に腰掛けた瞬は、手を伸ばしてゆきの髪に触れた。
「俺の言うことは信用できませんか?」
「そ、そんなことないよ」
 慌ててかぶりを振る。
 確かに瞬の言うことはいつも正しいと、ゆき自身がいちばんよく分かっていると思う。
 だが自分に関することは、そうとも言い切れないような気もした。
「でも……じゃあ瞬兄はわたしのどういうところを好きでいてくれるの?」
 そういえば改めて聞いてみたことはなかった。
 予想外の問いだったのか、瞬が僅かに目を見開く。
「……難しいことを聞きますね」
「え? 難しいの?」
「そうですね――」
 少しだけ困ったような顔になった瞬は、ゆきの髪を撫でながらゆっくりと言葉を紡ぐ。
「素直なところ。純粋なところ。ああ、頑固で融通が利かないところもですね」
「……」
「それから――目が離せないところ」
「ど、どういう意味?」 
 なんだかあまり褒め言葉らしくないことを並べられたような気がする。
 ゆきの困惑が伝わったのか、瞬は苦笑を零した。 
「あなたの行動は、俺が傍にいないといけないという気にさせられるんです。例えば――」
「例えば?」
「――例えば、俺の横で無防備に寝てくれることとか」
「……っ」
 からかわれているのかと思ったが、そうではないらしい。
 瞬は至極真面目な表情になり、少しだけゆきに顔を近づけた。
「ですが……そんな無防備な姿を晒すのは、お願いですから俺の前だけにして下さい」
「え、そ、そんなの当たり前だよ」 
 瞬以外の誰の前で、そんな姿を見せると言うのだろう。
 というかそもそも、自分がそんな風に思われていたとは知らなかった。
「わたし、そんなに危なっかしいのかな……?」
 真面目に考え込んでしまったゆきを見て、瞬が小さく笑う。
「いいですよ、分からないならそのままで。ただ――俺があなたから目を離さないようにするだけのことですから」
「それって……今までと何か違うの?」
「……いいえ」
 瞬の口から微かな笑いにも似た吐息が零れる。
 その唇がゆきのそれと重なり、離れたときの彼の瞳は今までよりもっと優しい色に満ちていた。

「何も違いません。俺は今までと同じようにこれからもずっと――あなたの傍にいます」
 


*『例えば、俺の横で無防備に寝てくれることとか』(リライト様提供『恋する台詞』)
 written by 緋緒さいか

 ED後の現代で、瞬兄は医者になってる設定です。
 予想外に書くのが難しいカップルでした;


何かひとことありましたらどうぞ。(字数は無制限に設定してあります)

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